忘愛症候群
「…っ先生教えてください!」
「お母さん、その方法はとても残酷な治し方なんです」
残酷な治療法。
肩がピクンとはね、ゆっくり視線を上げ先生を見た。
先生は治し方が残酷だと告げた。
それは治さない方がいいって言ってるのと同じで、もう治らないと言われてるのと同じ。
「先生…教えてください」
それでもあたしは治したい。
どんな治療法にも耐えるから…だからちゃんと愛しい人を思い出してまた愛しあいたい。
そんな思いも込め、強く言ったのに。
「知らない方が君の為だ」
悲しげな声で教えてはくれなかった。
結局治す方法は知ることができず、診察室を出たあたしとお母さんはお父さんと一真君の所に戻った。
「どうだった?」
診察結果を訊くお父さんは心底心配したらしく、手にハンカチが握られている。
一真君を見れば彼も相当心配してくれていたみたい。
「なんかさ、忘愛症候群って病気らしい」
これ以上心配させないように、頑張って明るい声で言ったのにその声は微かに震えてた。
そこまで言ってその先が言えず唇を噛みしめたら、お母さんが背中を擦ってくれて「私から話すわ」と2人に診察室で言われたことと同じことを説明した。
訊き終えた二人はあたしと目を合わさず顔を俯かせてる。
「一真君って呼べばいい?まぁ、とりあえず話を聞いて一真君」
俯く一真君は顔を上げないけど耳だけは傾けているらしいから続きを話した。
「一真君があたしの彼氏…なんだよね?忘れちゃってごめんね。本当に、ごめんなさい。これからだって、何度も忘れちゃう」
何度も忘れられるなんて嫌でしょう?
嫌だよね、苦しいよね。
「辛い思いさせたくない___だから別れよう」
多分これでいいんだ。
付き合ってる記憶ないし、よく分からないけど…これでいいんだよね。
いつまでも一緒だと疲れるよね、だからあたしのこと手放していいよ。
「愛、何言ってんだよ」
「別れた方がいいよ、こんな女」
そして新しい恋をした方がいいよ。
なんだろう、自分のことのはずなのにすっごい他人事みたい。
それはきっとあたしが彼のことを忘れちゃってるからなんだと思う。
「俺は別れない」
だけど、彼の答えはあたしが求めてたものじゃなくて。
「ダメだよ」
そんなこと言ったら余計苦しむことになる。
「別れねぇッ」
絶対別れた方がいいのに、一真君は頑なに別れないという。
「……どうして…」
あたしは、それだけ愛されてるってこと…?
苦しい思いをするって分かっているのにそれでもあたしを選んだ一真君を見てあたしの心が苦しくなった。