忘愛症候群
【医者side】
俺はハァ…と溜め息をついた。
渡辺愛さんのカルテ、診察結果を見て頭を悩ませる。
なんであんな若くていい子がこんな病気にかかってしまったんだろう。
まだ16歳の少女が愛する人を忘れるなんて酷すぎる話だ。
彼氏も別れない限りは何度も何度も辛い思いをすることになる。
そんなの俺には耐えきれない。
「はぁ……」
もう一度溜め息をついた。
「先生、大丈夫ですか…?」
仕切られたカーテンを開けて入ってきたのは、さっき愛さんのあ母さんを座らせ落ち着かせていた看護師で、俺を心配そうな目で声を掛けてきた。
大丈夫、か…まぁ大丈夫って訳ではないな。
「1つ訊いていいかな?」
他の人の意見も聞いてみようと思う。
「愛する人に忘れられたら君はどうする?」
「…それってさっきの子の病気のことですか?」
「まぁ、そうだね。で、どうする?」
彼女は少し悩むと俺の目を見て「私なら…耐えられません」と答えた。
そうだ、それが人間だ。
俺だって耐えられる気がしないというのに16歳の少年が耐えられるはずがない。
それに…彼女、愛さんだって治せたとしても悲しみと絶望の海に突き落とされることになる。
彼女も完治後とても辛い思いをすることになる。
「残酷だな」
「先生、それって治療方法のことですか?」
「あぁ」
彼女を見て言えばその目は知りたがっていて、それを教えようか教えまいこうか一瞬悩んだ。
だが今後の為にも彼女だって知っておいた方がいい。
彼女は看護師だ、知る権利はある。
俺はゆっくり口を開いて彼女に告げた。
「忘愛症候群を直す方法は____…」
「…そんなッ___それじゃああの子はっ」
「そうだ。治ったとしても心が壊れるだろう」
「酷いッ…どうしてあんな若い子が…」
「だから言っただろう」
____…この治療法は残酷な方法だと。