忘愛症候群
繰り返し
【一真side】
俺の彼女である愛は“忘愛症候群”という病気で、愛する人のことを忘れ記憶したと思ってもすぐに忘れてしまう病気なんだと言われた。
聴き慣れない病名にその内容、治療法はないというような言い方…俺は絶望した。
どうして別れない?
何度も忘れられて辛くない?
愛の病気のことを唯一知ってる友人のケンとトモカにそう訊かれたことがあった。
別れないのは忘れられたとしても愛が好きだから、それでも愛を心底愛してるから。
当然、死ぬほど辛いに決まってる。
愛の前ではよく笑ってるけど、1人になったら耐え切れなくて声を殺して泣いてる。
俺の心が泣き叫んでるんだよ。
だけど、その部分を見せないように笑顔を張り付けて今日も愛を迎えに行く。
重い足取りで愛の家に着くと、鉄壁の壁の様に重く感じる門を開けて敷地内に入りドアを開けると叔母さんが元気のない顔でリビングから出てきて悟った。
「ごめんね」と弱々しく謝られたせいで確信に変わった。
「一真君、今日は会わない方がいい…」
いつもならそんなこと言わない叔母さんがそう言い不思議に思った。
「どうしてですか。会わせてください」
忘れていたとしても愛に会いたい。
「お邪魔します」
俺はおばさんの制止する声を無視してリビングに入ると、愛はいなくて部屋がある2階へと上った。
「愛」
愛しい女の名前を呼んでドアを開ければ、驚くような光景が広がった。
部屋の中心に佇む愛は項垂れている。
背中を向けられていて顔は見えない。
床に目を移せば開かれた俺と愛のアルバム、その中に入っていた写真はあちらこちらに散らばっていて、中には破れているものもある。
「愛」
泣きそうな気持を押さえ、もう一度愛しい相手の名前を口にした。
____…振り返った彼女の口から放たれたのは「誰…?」と言う言葉で、ソプラノのその声は空気と共に消えた。
「あ…写真に写ってる、人…」
愛は“また”俺を忘れてる。
その上様子が可笑しい。
愛は…
「来ないで…!」
俺が近寄ろうとすれば拒絶の態度を表した。
今回のは今までより1番酷いパターンかもしれない。
今までは俺を拒絶したことなんてなかったのに。
なのに、なのに今回は…
「出てってよ!」
愛は俺が近づこうとすると近くにある物を片っ端から俺に向かって投げた。
「来ないで!」
その瞳は…今まではなかった恐怖が宿ってる。
「出てけ!!」
____愛に初めて拒絶された。