忘愛症候群


「別に大したことじゃない」


本当はそんなことないけどな。
強がってなきゃ、俺壊れそうで怖いんだよ。



「んなわけないだろ」

「……っ」



ケンはお見通しって訳か。



「一真」

「愛が俺を忘れて____拒絶した」



その瞬間俺たちの世界が止まった。

2人は何も言わず、ただ固まり、俺は俯くことしかできなくて…。
まるで、葬式みたいな酷い空気。




「6ヶ月の間に5回も忘れられて…5回目は初めて拒絶された」




今回のはかなり来た。




「拒絶って、なんでッ」




食って掛かるトモカに「病気の症状の1つだよ」と言えば「そんな…」と崩れ落ちそうになったトモカをケンがギリで支えた。



「なんでお前らがそんな顔すんだよ。忘れられたの俺だけなんだから」



そんな顔すんなよ。



「辛いじゃん…」

「トモカ?」



なんで泣くんだよ。
お前は辛い気持ちなんてしなくていいはずだろ。



「一真がいつもいつも辛い顔するから私たちも辛いんだよ!」



流れ落ち涙を拭うことなく喋り続けるトモカ。
ケンはそんなトモカの背中を擦ってあげてる。



「平気な顔してっ」



嗚咽を漏らしながら。



「強がって…っふぅ…無理して、笑ってッ…」



トモカが代わりに___…



「辛いくせにッ!!」



心の声を口にした。
トモカのせいで壊れそうになっていた心のダムが決壊して全てが流れ出した。



「辛いよっ…あぁ、辛いに決まってるだろ!!」



拳を強く握りしめて2人に溜めていたものをぶつける。




「お前らのことは覚えてるのに俺だけ何度も忘れられてッ」




好きな女に忘れられて辛くないわけがないだろッ!!




「忘れられて辛いけどっ…俺は愛されてるからそうなってるんだって思い知らされて別れられねぇッ」




ついに涙のダムまでもが壊れ始める。
じわじわと熱くなる目頭。




「俺も愛を___愛してるからっ」




1粒…涙が頬を伝って流れ落ちた。


涙を全て流して枯れてしまえば、今までのことなんてなかったことのように洗い流して元に戻してくれるだろうか。



声が掠れるほど、出なくなるほど泣き叫べば神様は愛の病気を治してくれるだろうか。


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