忘愛症候群
手紙
【一真side】
その日から俺は愛に手紙を書きだした。
書いてはポストに入れて、返事を待たずしてまた書いては愛の家のポストに入れた。
返事なんて別に待ってない。
返事が返ってくるなんて思ってないから。
読んでくれるなら…手紙を読んでくれるならそれでいい。
「愛、読んでくれてるよな…?」
届くはずのない俺の声は、自分の部屋に響いて寂しく消えていった。
ふぅ…と一息ついてペンを握り、目の前の紙と向き合って4通目の手紙を書き始めた。
今日はどんなことを書こうか。
拒絶されてる今、俺が愛と関わることができる方法はこれしかないから。
俺はこの手紙1通1通に思いを込める。
ペンを真っ白な紙に立て、インクを紙にのせていく。
真っ白だったそれは書き始めた文字のせいでどんどん黒く染まっていき、1枚目を書き終えると紙は完全に黒に侵されていた。
「あと2枚書くか」
書き終えた1枚目を傍に置いて2枚目に手を伸ばして再び想いを込めながら、愛のことだけを考えなてペンを進める。
全て書き終えたころには2時間も経っていて、3枚と決めていたはずなのに結局5枚も書いていた。
これで4通目になるが我ながらよく話が尽きないなと思う。
5枚の紙を白い封筒に入れてテープで止めると優しく手紙を撫でる。
「愛…」
気づけばいつも愛の名前を呼んで、会いたいと零し、しまいには涙さえも浮かんでくる始末。
これは本当重症だ、愛不足すぎて困る。
できることならば強く抱きしめて沢山キスしたい。
名前を呼んで、好きだって言って、愛してるって伝えて…それから___愛に呼ばれたい、愛に好きだって言われたい、愛に愛してるってあの声で言葉を紡いでほしい。
この願いが叶うことは絶対ない…だからといって別れたいとも思わないし、嫌いにだってなれない。
別れたら俺がダメになるし、あり得ないけど別れたとしても未練タラタラで新しい恋なんて出来やしない。
「…会いたい」
……悲痛な思いが胸を切り裂く。
___俺は折角書いた手紙を握りしめた。
【一真side end】