忘愛症候群


「ちょっと…なんで怒ってんの」




トモカの家に着くなりインターホンをこれでもかって連打した。


よく考えれば迷惑極まりない行為だし、高校生にもなってこんなことしたなんて恥ずかしすぎる。


トモカは外に出てくるなりそんなあたしの顔を見てそう一言零した。


怒ってる?あたしが?




「怒って、ないし」

「いや、その顔完全に怒ってるし」




まぁ、とりあえず入れば?と家の中に入れてくれたトモカ。


お邪魔しますと踏み入ったトモカの家はいつも綺麗で、本当綺麗好きというかそれを通り越して軽く潔癖交じりの一家だなぁって思う。



今のは断じて悪口じゃないから。
初めてトモカの家に来たときはビビったもん。


その時はトモカのお母さんと中学1年生の弟がいて、弟はリモコンの位置に雑誌の位置、ソファーに置いてあるクッションの位置までせっせと直していて一瞬意味が分からなくて「え?」てなった。


綺麗好きもあるけど、神経質でもあるというか…。



そしてお母さんはおやつを作ってくれて作ったものはすぐに洗い終えると、コンロやその周りをこれでもかって程ピカピカになるまで磨いていた。


あなたは業者さんか何かですか…。



小さなほこりや汚れを見つければハンディモップや汚れ取り専用のタオルを取り出し、しっかりと落ちるまで吹いていた。


トモカも親譲りの綺麗好きは学校でも発揮される。



それは想像通り清掃時間にその能力は力を見せる。


窓の溝にたまった埃、窓についた指紋、床の黒ずんだ汚れを清掃時間いっぱいいっぱい使って落としていく。


それはもう魔法のように。



「で、今日は何してたの?」



そうトモカに問えば。



「掃除」



それがさも当然だろと言わんばかりにさらりと答えた。


いや、トモカにとったらそれが当然なんだけど。

どうやら彼女は今日も家に汚れ1つも許していないらしい。



「よく飽きないよね」

「飽きるも何も、楽しいし」



掃除を楽しいって言う人中々いないんだけどな。


あたしの知ってる中じゃトモカたち家族くらいじゃないかな。


それにしても…リビングに招かれて白くてふかふかのソファーに身を沈めているとウトウトし始めてしまう。



「ちょっ、寝ない寝ない。起きてよ」



寝始めようとしたあたしを叩き起こしたトモカは「まったく何しに来たのよ」と文句を零す。




「紅茶でいいでしょ」




疑問形ではなく確定系で言ってくるトモカはいつもそう。


あたしは家や学校で紅茶なんておしゃれなもの飲まないけど、実は紅茶が好きで週に一度は紅茶専門店に行くほど。



家で作るのが面倒だし、可愛いカップだってないからそういうお店に出向いてスコーンなど甘いものを頬張りながら紅茶を楽しんでる。


トモカの家にお邪魔すれば一番好きなピーチティーを出してくれるのがお決まりになった。

< 36 / 83 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop