忘愛症候群
もちろん可愛いカップに注いで。
面倒くさがりな性格さえなければ自分でもたまーに作ったりするのかもしれないけど、それはこれから先もないだろうなと思いながら口に流し込んだ。
その瞬間ふわりと香るピーチの香りに癒される。
「ん~、美味しい!」
今日は手作りクッキーもあって最高です。
大変美味でございます。
リスのように頬張っていると、トモカはカップに入った同じティーを飲んで漆黒の瞳であたしを捉えた。
「ねぇ、何かあったんでしょ?」
一番の友達は何でも見抜いてしまうらしい。
何があった、なんて本当は分かってるはずなのに。
こうやってあたしの気持ちを言わそうとする。
「お母さんがまた手紙を渡してきた」
「…一真からのやつだよね」
もちろん、それ以外ない。
「だから捨ててって言って出てきた」
「……はぁ」
告げた後、俯いたあたしにトモカは溜め息をついて透きキツい声で言った。
「一度くらい受け取ったら?」
___あたしは耳を疑った。
「トモカまでそんなこと言うの…?」
味方だと、思っていたのに。
彼女までそう言い出すなんて思いもしなかった。
そんなんじゃなくて「愛が嫌なら受け取らなくていいんだよ」ってあたしの気持ちに沿ってくれるもんだと思った。
だけど、全然違った。
「ねぇ…なんでっ?」
トモカまで……あたしの味方は1人もいないの?
友達にもそう言われて泣きたい衝動に駆られ、目頭が熱くなり、上手く喋れなくなっていく。
「愛。愛が苦しいのは分かってるし、拒否反応が起きてるのも分かる」
「だったらどうして!」
「だけどね、愛と同じように一真だって相当苦しんでる。大好きな人に忘れられて拒絶されるって苦しいんだよ?辛いんだよ?私はケンにそうされたら耐えられない」
___そんなこと、考えたこともなかった。
あたしからしたら一真という人は知らない人で、赤の他人でしかなくて…だけど周りの人たちからしたらそんなんじゃなくて、誰もが羨むカップルだってイヤでも耳に入ってくる。
「私なら死ぬほど耐えられないのに、一真は忘れられても、拒絶されても毎日毎日手紙に思いを込めて愛に届けてるっ」
泣きそうなあたしよりも先に涙を流したトモカ。
「愛は知らないだろうけど、一真かなり堪えてて食事だって全然とってないし、だから痩せてきてて……それに前より笑わなくなった」
ぼろぼろと流れ落ちる涙を拭うこともせず下へと落ちる雫は絨毯にシミを作っていく。
「お願いだから…1つでもいいからっ…読んで、あげてよッ」