忘愛症候群
トモカの最後の言葉は心の底からの叫び声のようにも聞こえ、あたしの心に深く届いた。
あたしはこの時初めて、あたしがとっていた行動や態度が皆を苦しめて傷つけていたのだと理解した。
「ごめっ…ごめんトモカ___ごめんッ」
傷つけてごめんね。
苦しめてごめんね。
こんなに追い詰めて…ごめんね。
トモカだけじゃない。
お父さん、お母さん、お兄ちゃん、ケン…それから___一真くん。
一番傷つけて苦しめて追いつめた。
唯ア一番心も体もボロボロで辛いのは彼だ。
そうしたのは他でもないあたし。
あたしに拒まれても毎日届けられる彼の想いを踏み潰し続けていたんだ。
___本当に最低だ。
死ぬほど最低な女なのに…それでも彼はあたしを好きだと言う。
「ごめんっ…ごめんね、本当にっ」
言葉だけじゃ足りないくらいの気持ちに襲われて、そのかわりに大量に目から涙が溢れ出す。
「愛っ…」
「あたしっ…マジ、最低だね…」
「愛っ、そんなこと…!」
「そんなことあるよッ」
トモカの言葉を否定して首を横に振った。
「家に帰ったら…1つだけ読むから」
「…え」
あたしか口にしたことが思いがけなかったのか、信じられないのか、トモカは目を見開いてピタリと涙を止めた。
「手紙、読む…」
「嘘…」
「嘘じゃない…」
本当に読んでくれるの?と確認を取るトモカに少しだけ笑って見せて本当だよ、と伝えた。
そしたらトモカの表情は一気に明るくなって、勢いよくあたしを抱きしめた。
「痛いよトモカ、苦し___」
「ありがとうっ」
「……」
「ありがとう。愛」
「読んだら…一応返事は書くつもり…」
「本当!?」
「でも!……期待はしないで」
返事をどう書くなんてその時のあたし次第。
もしかしたら酷いことを書いてしまうかもしれない。
だから期待だけはしないでほしい。
「分かった」
「それから読んだことと、返事を書くことだけは言わないで」
「…………うん」
返事に間があったものの渋々といった様子で承諾してくれたトモカ。
これが約束できなかったら返事は書かないつもりだった。
一真くんにもへんに期待させたくないから。
「じゃあ…帰るね」
小さく零して立ち上がったあたしは、帰り支度をしてトボトボと玄関に向かい、一呼吸おいてから扉に手をかけた。
「愛」
トモカの声に振りかえれば、微笑んでいる彼女がいて…あたしもぎこちないけど微笑み返した。
「ありがとう」
「なんのことだか」
しらばっくれたあたしにトモカは「バーカ」と口をパクパク動かして凸ピンを食らわしてきた。
地味に痛かったけどあたしはその痛みを受け入れた。
本当ならあたしの罰はこんなものじゃすまされない、もっと大きくて重いものだから。
それでも、トモカはそれだけで済ませた。
びんたの一発くらいはされる覚悟はあったんだけど…いや、別にされたいとかそんなことは思ってないけどさ。
殴ることも、責めることもしなかった。
そのせいでまた泣きそうになってしまうあたしがいる。
「愛、待ってるからね」
その言葉に、背を押されながらトモカの家を後にした。