忘愛症候群


【一真side】



ある日、トモカから1枚の紙を受け取って目を疑った。


視線が手紙をトモカを何度も行き来した。



「それ、偽物じゃないよ」

「夢でもない?」

「夢じゃない」



偽物でもなければ夢でもない。
どうやらこれは現実らしい。


手の中にある手紙は紛れもない愛の字___愛からのものだ。


あの性格や態度からは想像もつかない達筆な字は、愛がちゃんと書いてくれていることを物語っている。


「愛ッ…」



愛する女の名を口にして、1粒だけしょっぱい水が頬を伝った。



“一真くんへ


初めて貴方に手紙を書きます。

手紙、1つだけ読みました。

最初から最後まであたしを想った内容で少しだけ恥ずかしくなりました。

読むのには勇気がいり、読むのを断念しようとしたけど、少しでも一真くんを苦しめない為には読まないといけないし、あたし自身前に進むためには読まないとって思ったから。

一真くんの気持ちはすごく伝わりました。

ありがとうございます。



それから、ご飯はちゃんと食べてくださいね。


渡辺 愛より”



嬉しくて嬉しくて、堪らなくなった。


拒絶反応があったかもしれないのに読んでくれた上に、少ない文章とはいえ返事も書いてくれて、それに俺の体のことまで心配してくれた。



そんな愛が、より愛おしい。

愛は狡い。


だから俺は愛を嫌いになんてなれない、別れるなんてできない。


愛しくて仕方ない。




「一真、ご飯しっかり食べないとね。愛もこう言ってるし」

「ほらよ。ケン特製のバクダンおにぎりやるよ」

「ふっ…んだよそれ、何が入ってるわけ?食べれんの?」

「おまっ、このおにぎりバカにすんなよ!?やみつきになるからな!食え!」

「ふごっ!!はひふんはほ!(何すんだよ!)」



こうやってまた笑える日が来るのが嬉しかった。

俺が笑顔をなくしてからケンもトモカも笑わなくなった。


だけどたった今幸せを感じた俺は笑えるよ。


足りないのはもう1人。



この中に愛が戻ってきたらまたバカやって笑いあいたい。


その願いは____…




【一真side end】

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