忘愛症候群
シロクマ
8月25日、寝起きのあたしにトモカは電話越しにこう言った。
『明日水族館に行こう』
___てね。
水族館は好きだよ?ぜひ行こうって言いたいよ?
だけどね、
「メンバーは?」
___そこが問題。
きっとあたしと2人で行くんじゃないんだろうなって思っていたらトモカは当然のように言った『私と愛とケンと一真』と。
「待ってなんで一真?」
それじゃまるでダブルデート。
『だって愛、一真とLINEしてるんでしょ?』
「……っ」
どうしてそれを知って。
真実をつかれて火照りだす顔。
『今赤くなってるでしょ?』
「…なってないし」
さらに図星をつかれてしまいそれ以上に熱を持つ。
確かにあたしは一真くんとLINEをしている。
そのきっかけは初めて一真くんに返事の手紙を渡して3日後くらい。
あの返事の手紙に対して返事の手紙が届いて、その中に電話番号とアドレスが記入された紙があり“気が向いたら登録して”と書いてあった。
あたしのケータイには一真くんの連絡先が入っていなかった。
否、記憶を失う前のあたしが消していたんだと思う。
あたしは戸惑い、どうしようと迷いながらも震える手で一真くんの番号とアドレスと新登録して、LINEも追加した。
それからたまにLINEをするようになった。
内容なんて大したことなくて、一真くんが振ってくれる話題に短く返事をするだけ。
愛想がないと思われるかもしれない。
だけどこれが今のあたしの精一杯。
どんなことを話しているかまでは知らないようだけど、LINEをしていることは知っていて…だから一真くんもメンバーに入ってるんだと察した。
じゃなきゃ入れるはずがないもん。
『愛、愛が無理そうなら断___』
「いい」
『え?え?』
「そんなことしなくていい」
そんなことしたら、せっかく食べてるご飯をまた食べなくなってしまうかもしれないじゃん。
「一緒に行く、よ…頑張る」
少しでも前に進むために。
前のように皆が傷ついたり、苦しんだり、追いつめられたりしないように。
「進まなきゃいけないのはあたしだから」
『愛何か言った?』
「ううん、何でもない。で、明日何時にどこに集合?」
トモカから場所と時間だけを聞いて切ると一呼吸つきながらケータイを机の上に置いた。