忘愛症候群
そうだ、何もしなければいいんだ。
そうと決まれば掃除機をしてクーラーを効かせてお昼寝しよう。
さっそく掃除に取り掛かったあたしは、家中にブォーンという音を響かせてながらあちこちを綺麗にしていき、低めの温度設定にしてひんやりと室内が冷やしていく。
「さいっこう…」
ソファーに横になって呟くと眠気の波が徐々に襲ってきて、あぁ落ちるって時だった___
“ピロリロリン”
___誰かからLINEがきた音で眠気が覚まされたのは。
睡眠を妨げられて沸々と込み上げてくる感情。
「せっかく眠れるとこだったのに!一体誰___…え?」
それは思いがけない人物からの連絡だった。
一真くん【愛、今から会える?】
___ドクンッ
血が逆流したかのように体が熱くなった。
心臓というポンプの動きが激しさを増す。
胸が苦しくなる。
あぁ、あたしまた一真くんを拒絶し始めちゃったのかな…。
そう思ったのも一瞬の出来事で、瞬時に違うんだと頭が理解した。
彼のことを考えるだけで熱をもつ体、速さを増していく動悸、苦しくて苦しくて仕方ない胸、顔を合わすとあたしがあたしじゃなくなってしまいそうで…どうにかなってしまうかもしれないという恐怖。
___彼が怖いんじゃない、彼を想い始めている自分が怖いんだ。
これはきっと前兆か何か。
今、彼のことは好きじゃない。
でも気になっているのは確か。
拒絶だって少しずつしなくなってきてる。
このままいけばすぐ好きになってしまうのは明らかだから。
だけど思い出して___あたしが【忘愛症候群】という病気だということを。
これまであたしは6回ほど彼を忘れている。
それは好きになって、愛してしまった次の日には一真くんのことを一切覚えてないということ。
多分、今までのあたしもそのことについて、好きになる前に気づいていたとしたら?
知ってて好きになって、愛してしまったその次の日にすべて忘れ、好きになって事も愛したこともなかったことになっていたとしたら?
あぁ…なんて最悪なんだろう。
忘れてしまうって分かってて好きになるって…死を悟るのと同じようなことじゃん。
嫌だ、せっかく和み始めて…仲良くなって…笑いあえているのに。
でも嫌だ、あたし一真くんを好きなる気持ちにきっとブレーキを掛けられない。
だけど、だけどッ…皆の笑顔を壊したくない。
それでも、一真くんを想いたい。
好きになりたい。
好きになって、告白して、今までの分もたくさん好きって言ってあげたい。
それ以上に謝って、愛してるよって伝えてあげたい。
でも…だけど、好きになっちゃいけない、愛しちゃいけない。
その想いを認めてしまったら何もかも忘れて、なかったことにして、何1つ伝えることができなくなっちゃう。
___…また、また一真くんを苦しめてしまう。