忘愛症候群


それなのに、苦しめてしまうって分かっているのに___会いたいと思ってしまうあたしは最低だろうか?




「…会いたい」



会って話したい。



「一真くんに、会いたい…」



一真くんに返事を返したあたしは重い腰を上げて準備を始めた。






________________…



「おまたせ」

「うん。可愛い」

「ちょっ、いきなりそういうこと…言わないでよ…」


今日も今日とてさらりと言ってのけた彼には尊敬する。


普通の日本男子は絶対そんなこと言わないし。


例えばケンがそう言ったとして…___



『トモカ可愛い』



ないないないない、絶対ない!あり得ないにもほどがある!


超鳥肌もんなんですけど!


ごめんケン、はっきりいってめっちゃ似合わなかった、何か気持ち悪い!



勝手に妄想しておいて何も悪くないケンはあたしにそう思われているのであった。


うぅぅっ、身震い。




「愛どうした?」

「いや、ちょっとケンのこと考えたら鳥肌と…身震い、がってどうしたの?」


どうしたのって訊かれたけど、逆にどうしたのって思う?


だって少しだけ不満というか、不機嫌そうにしている一真くんがいたから。


眉間に寄せられた皺は明らかに上機嫌なわけがない。



あたし、何か言った?何かした?

身に覚えがなさ過ぎて困る…。

これは聞くしかないでしょ。



「あの、あたし何かした?なんで…不機嫌なの」

「不機嫌ていうか……嫉妬した」



しし、嫉妬した?

待ってなにそれ、そう返ってくるとは思っていなかった。



「俺と出掛けるって時に他の男のこと考えないでよ」



むすっとした顔であたしに向けてそう言った彼。
本人には絶対言わないけど、可愛い。




「ごめん、じゃあ今から一真くんのことでいっぱいにするね」




あたしなりに勇気をだし、気持ちを込めて言ったつもりだったんだけど。




「…なにそれ」

「え?!ごめん怒った!?」

「怒ってないよ。ただ、今の言葉は反則すぎ…」

「えっと…ごめんね?」



顔の前で手を合わせて首を傾げれば、顔を逸らした一真くんにショックを受けた。


これは本気で怒らせた?あたしよ、一体どこで怒りのスイッチを押してしまったの。



「別に怒ってないから」

「ほ、本当?」




そうやってそっぽを向かれたままだと本当かどうか怪しくて怖い。



「いいから行くよ」

「ほえっ!?」



どこに?と問う前に家から連れ出されてしまったあたし。


外は想像通り暑いのだけど、繋がれた手にドキドキしてそれどろこじゃなかった。



「……ッ」



胸が、痛いっ。

突然襲ってきた痛みに耐えて、繋がれていない方の手で胸を押さえる。


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