忘愛症候群


一真くんお願いだから今はこっちを見ないで。

前だけを見て、振り返らずに。


こんな苦しんでる姿を見られたくないから、見てほしくないから、心配かけたくないから。



だからこんな痛みも早く治まって。



「っ……はぁ」



だんだんと痛みが引いていく。

これはきっと警告だ。

好きになってしまう前兆としてこうやって知らせるんだ。



“好きになるな”と。



本当、いったいどこまで残酷なんだろう。


「愛」

「……」

「愛?」

「あ…うん、ごめん何?ボーっとしてた」

「愛が行きたがってた場所に着いたよって」



___あたしの行きたがってた場所?


そんな場所あった?言った?と疑問に思いながら顔を上げれて、あたしは視線はソレにくぎ付けになって離れなかった。



「ここ…」




そこは本当にあたしの行きたがってた場所だった。


行きたいと言っていたあたしでさえ忘れてしまっていたそこは、“天使のパンケーキ”という今人気なお店。


前に“誰か”と行く行かないで言い争ったような記憶がある。


その“誰か”がまったくと言っていいほど思い出せないけど、仲が良くて大切な人のような気がする。



“誰か”ってだれなんだろう…。




「入るよ」

「えっ、待った!」

「何?」




何?って…人並んでるのに中に入るって、あたしの方がなんで!?なんだけど。

それを悟ったのか…



「あぁ、予約してるから大丈夫」



と言ったんだ。


そして足がなかなか動かないあたしを引きずるようにして中に入った一真くん。


ハッと気づいたら、それはそれは可愛い空間の中にある可愛い席についていた。



「あの、訊いてもいい?」

「ん?何?」

「その…予約っていつから?」



そう、この天使のパンケーキと言うお店は1年前にオープンしたものの、人気が絶えず約3ヶ月待ちなのだ。



「5月くらいだったかな」



だから、自然とそういうことになる。
なんてこった。

あたしは開いた口が塞がらなかった。

じゃあ、あの言い争いの相手は一真くん?




「もしかして言い争ったのも、覚えてない?」

「あの、えっと…ごめん。誰かとそうなったのはうっすらとあるんだけど…」



申し訳ないというか、自分が酷い女すぎて目を合わせられないというか…あたしは俯くしかなかった。



「誰と言い争ったのは覚えてない…か」

「…うん。でも、その相手って」

「うん、俺だよ」



やっぱり一真くんだった。



「俺のことすっぱり忘れちゃうもんね。仕方ないよ」


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