忘愛症候群


けど…笑ってくれた。
笑わせてあげられた。


これが一真くんの本当の笑顔なんだと思う。


前はいつも、きっとこんな風に毎日笑っていたんだろうな。


その優しい笑顔にあたしも自然と笑顔になる。



「___笑った」

「え?え、なに」

「愛、やっとちゃんと笑ったね」



今、あたしちゃんと笑えてたの?
一真くんの前で、ちゃんと笑えた。


それを一真くんに言われ、なんだか心の底から嬉しくなった。



「それは一真くんが笑ってくれたからあたしも笑えたんだよ」

「俺?」

「そう、一真くんのおかげ」

「そっか…ていうか“くん”付けやめない?」



ていうか急すぎません?
え、いきなり?今?



「い、今やめるの?」

「ん。できれば今から」



んな無茶な。



「ずっと一真くんって呼んでたのに…てか癖になっちゃってるし…」

「じゃあ“一真”って呼ぶのを癖にすれば?」




一真くんってたまに強引と言うか、俺様?というか、そういう部分見え隠れするよね。



「じゃあそう呼ばせていただきます」

「お願いします」



にっこり笑って見せた一真く…一真はすごい満足そうに見える。


それからパンケーキを食べ終えたあたしたちは少しおしゃべりしてからお店を出たんだけど、一真ったらいつの間にか会計を済ませていて、レジでお財布を開いて払う準備をしていたあたしは口をあんぐり開けていた。



おいおい、ちょっとどこまでジェントルマンなんですか。


彼はどこまでもスマートすぎる。


あたしに道路側を歩かせないし、人ごみにのまれそうになったら自然に手を繋いでくるし、トイレに行きたいななんて思って口に出せないことがあったら「俺トイレ行くけど行く?」なんてさりげなく訊いてくれるし。



あたしの彼氏って顔も中身もこんなスーパーイケメンだったんだて思った。


惚れ直したに近いかな。


でも、好きとか…惚れなしたなんて思ってしまったら___



「…っ、またっ…」



胸が苦しくなって、頭まで痛くなる。
しかもさっきより少しだけ長くなっている気がする。



「…っ、はぁ、かず…ま、」



ここがトイレ内でよかった。

さっきタイミングよくトイレに行く?て訊いてくれたから…。


一真の前でこんな姿見せたくない。


さっきより、きつくて長い…どうして?

働く脳、駆け巡る記憶。

行きついた答えはただ1つ。


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