忘愛症候群
一真って優しいけど、たまに意地悪なとこあるしSなところがあるっていうか、小悪魔になるというか。
色んな意味で罪な男だよね。
「飲まないの?」
「飲む」
そう言って受け取った水を飲もうとしたらすでにキャップを開けてくれていたようで、簡単に蓋が取れた。
できる男と言うか、気遣いがすごいというか。
「本当優しいね。ありがとう」
今度はあたしが微笑む番だった。
「それは狡い」
はい?なんだって?!
「今のは俺だけの笑顔だから、他の男にやっちゃダメだからね」
「___…ッ」
なんだそれって言いたいのに言えない、言葉が喉で詰まって口まで出てこない。
一真がカッコよすぎて。
今のは最高に胸キュンワードでした。
今セリフだって、あたし以外の他の女の子に言っちゃ嫌だからね。
「愛ちゃーんそれ飲んだら撮影始めるわよ!」
「は、はい!」
一真としゃべりこんでたらいつの間にか休憩は終わっていて、あたしは慌てて手にしていた水を勢いよく飲んで蒸せた。
「ゴホッ、ゴホッ…!」
「愛、ゆっくりでいいから。それ飲んだら行こう」
背中をさすってくれる彼の手が心地いい。
ゆっくり水を飲んで、彼の手に支えられて次の撮影場所であるチャペルの外へと向かうと、皆さんすでに準備が整っていました。
あたし待ちと言うわけですね、すみません…。
「メイクはちょっと控えめにね。あと汗があまり出ないようにして」
メイクさんはマリさんの指示通りに動くと、あっという間にお色直しが済んでしまった。
「うん。綺麗よ」
満足げに口角を上げてみせたマリさんの妖艶な笑みに頬を赤くさせているだろうあたしは、すばやく一真の背中に隠れた。
「愛?」
あたしの妙な行動に若干心配をする一真の呼ぶ声なんて聞こえない。
ドキドキと五月蝿い自分の鼓動しか耳に入ってこなくて困る。
「やばい。あれは女のあたしでも惚れちゃう」
危険すぎる。
親戚そろってこんなフェロモン散らすなんて。
「マリ姉さんに惚れてもらったら俺が困るんだけど」
「え?ぅわぁ!ち、ちちち近い!」
頭上から声がして顔を上げればすぐ目の前に綺麗な顔があって、その距離に再び顔を赤くした
「可愛いなぁ、大好き」
そんなことがサラリと言えちゃうんだから実は日本人ではないのでは??
なんて馬鹿げたこと思っちゃったけど、こんな人、シャイな日本人の中ではレア中のレアだと思う。
「ねぇ愛」
「な、何?」
「結婚式上げるならさ、ここよりもっと素敵な所で、もっと豪華なドレス着てもらって、愛が望むダイヤの指輪をつけてあげたいな」
「へっ?!きゅ、急に何?どど、どうしたの?」
すると一真はその場にゆっくりと膝をついてあたしの左手を取り、あたしを見上げた。
あたしは未だにプチパニック。
そんなあたしの左手の甲に視線を落とすと口づけをした。
あ…綺麗…。
一連の動作をそう思って見ていたら、再び視線をあたしに戻した一真。
見上げるその姿さえも美しい。
「結婚の約束をしよう」
____…えッ!?