忘愛症候群
…あたしの携帯、どこ?
「あの、あたしの携帯ってどこにあるか分かりますか?」
「携帯だったらあの引出しの中に……はい、誰かに連絡するの?」
看護士さんは携帯と取ってくれてあたしの手の中に手渡すとそう訊いてきた。
「はい、彼氏に」
少し照れて恥ずかしかったけどそう伝えて電話帳から【一真】の名前を探して電話を掛けた。
___RRRRRR
だけど、どれだけ待っても聞こえるのはコール音のみ。
どうしてとらないの…。
仕方なく切ると耳から話して画面を見つめる。
どれでもやっぱり諦めきれずもう一度掛け直した。
ねぇ、なんでとらないの?
お願いだからとって、声を聞かせて。
「っ…嫌な予感がする」
一真の身に何かとんでもないことが起こりそうな、起こっているような気がしてならない。
一真に何かあったらあたし、あたしっ…。
お願いだから「大丈夫だよ」って声を聞かせて。
あたしの胸は今にも押し潰されそうだった。
そんなあたしの胸を押し潰したのは…
「愛さん!」
「先生…一真が…」
「一真くんが運ばれた。会ってほしい」
___他でもない、一真…貴方だった。
「運ばれたって、なんで…」
嫌な予感ほど、よく当たる。
「まさかっ、さっき運ばれてきたのって…!」
「愛さん、すまない…彼はもう」
先生のその言葉の先は分かりたくないって思うほど、分かってしまった。
「ぃ、や…やだよ、嘘だって言ってよ」
「……」
「せんせぇ!!嘘だってっ…言ってよ!!」
信じられなくて、信じたくなくて…泣きじゃくりながら先生の服を掴んで揺らした。
「……っ、愛さん」
先生は今にも泣きそうで…どうして先生がそんな顔するのか分からない。
「せっかく、思い出したのにぃ…記憶戻ったのにっ…」
「だからなんだ。すまない愛さん、いずれはこうなってしまう運命だったんだ…」
「こうなるって、どういうことですか…教えてください」
「今聞いたら君の精神状態が保たれない」
「っじゃあ!一真に会わせて!」
あたしの精神なんてどうでもいいから。
どうなたっていいから。
一真がどんな姿になっていようと…あたしは会いたい。
会いたいの、会いたくて仕方ないの。
先生の服をギリギリと掴んで流れる涙はそのままに、顔を俯かせた。
「お願いっ、一真に___会わせて」
「………分かりました」
その言葉にバッと顔を上げれば先生は眉間にしわを寄せ、悲しい顔をしていた。
「…詳しいことは後でお話しします」
先生はあたしの手を取り、優しい手つきで体を支えると病室を出てある場所へと案内した。
「霊安室…」
その言葉を口にしても現実味が湧いてこない。
でもきっと違う…頭が、心が現実だと思いたくないからそうしているんだ。
彼を見てしまったら…あたし、自分で自分を殺してしまいそうな気がする。
「愛さん」
先生は最後の確認と言うようにあたしの名前を呼んだ。
「先生、開けてください」