忘愛症候群
それでもあたしの覚悟は変わらない。
一真と会って家に帰ったらあたしも死のう。
一真のあとを追いかけよう。
そう魂に誓った。
ゆっくりと開かれた扉の先に、ベッドの上に仰向けになって白い布を掛けられた人がいた。
___あぁ、一真だ。
顔を見なくてもすぐに分かってしまった。
「…一真」
今ここにいるのに、この世にいない。
そこにいるのに、口だってあるのに返事がない、あたしの声すら届いてない。
「一真…」
一歩一歩、ベッドに近づくとはっきりしてくるその人の顔。
「……っ」
やっぱり…本当に…一真なんだ。
現実味を帯びてなかったあたしのそれはいきなり現実味を帯びて、耐えられずその場に崩れ落ちてしまった。
「愛さんっ」て先生の声が聞こえたような気がするけど、あたしの中ではそれどころじゃなかった。
人の声が入ってこないほどの衝撃を受けていた。
ショック?そんな生易しいものじゃない。
四方八方から刃物で刺されたような苦しみ、痛みに襲われた。
一真の顔は深い傷はないものの、掠り傷や打撲痕があって痛々しかった。
血の気がなく真っ白を通り越して青白い。
先生曰くちゃんと見れるのは顔くらいらしく、首から下は骨が折れ、砕け、腹部も潰れ見きれたものじゃないらしい。
「………っるせない」
許せない。殺したい。
今すぐその加害者をこの手で葬り去りたいくらいの殺意があたしの中にあった。
___ぽん…ぽんぽん
あたしの中にドス黒いものが渦巻き、大きな手が頭の上に乗ったのを感じて顔を上に向けたら、先生と視線が交わった。
「憎い気持ちも分かります。恨む気持ちも分かります。相手を許せないことも、それから自分自身を許せないことも」
「__っ!」
自分自身を許せないって、どうして分かったの。
「俺だって俺を許せないんです。こうなるとわかっていて何もできなかったんですから…」
さっきも言っていた、こうなることが分かっていたって。
「だから愛さん、お願いがあります」
「なん、ですか…」
ゴクリ、唾を飲んで先生の言葉を待った。
「死のうと、しないでください」
それはとてもとてもな悲しい声で言い放たれた言葉だった。
「いや…あたしは一真といたい。一真のところに行きたいんですっ…」
そう思ってしまうのはいけないことだろうか?
そう願ってしまうのはいけないことだろうか?
「ダメです。俺だって行かせい、第一…彼が絶対に行かせてくれないはずです」
そう言いながら先生が見つめたのは目の前にいる一真。
「彼から何通もの手紙が届いてるはずです。それを全て読んでから、気持ちが変わらなければ…また俺のところに来てください」
そうだ…あたしは一真から届いていた手紙を1つしか読んでいない。