忘愛症候群
でも、どうして先生が手紙のことを知っているの。
「せん___」
「愛さん…彼に、一真くんに挨拶を最後の別れを言ってあげてください」
「検死の為少しの間会えなくなります」と続けた先生。
少しじゃない、少しどころでは済まされない。
これから先、一生この世で一真に会うことができなくなる。
声を聞くことも、名前を呼ばれることも、笑いあうことも、ケンカしあうことも、抱きしめあうことも。
キスをすることも。
互いの愛を確かめ合う行為もできない。
もう二度と一真を感じることができない。
記憶が戻ったら永遠の別れとか、本当笑えない。
信じられない。
どこまで残酷なの。
先生が言っていた「残酷な未来」はこのことだったんだ。
「…っ、かずま…一真っ」
本当なら一生分一真の名前を呼びたい。
「一真の、笑った顔もっ」
口を大きく開けて笑ったり、微笑んだり、意地悪な笑顔も。
「…っ怒った、かお…も」
あたしを思って怒った顔、嫉妬して怒ったり拗ねた顔も。
「哀しっ…そうな顔も…」
ケンカして泣いたときの顔も、感動ものの映画を見てた悲しそうな顔も。
「た、のしそうなっ…顔も…!」
時に子供のように楽しそうで、時におとなな対応をしながら見せる楽しそうな顔も。
「全部…!」
___…一真のそういうところが好きでしょうがなかった。
「昨日のことのように…っ思い出せるくらい、好き__!!」
忘れることなんてできっこない。
「すきっ、すき…一真が、好きっ」
好きで堪らなくて、大好きで…恥ずかしくてたまにしか言わなかったけど本当は愛しくて堪らなかった。
「ねぇ、一真…」
先生の傍から離れてゆっくり一真に近寄って、顔を近づけた。
「愛してる」
音もなく一真に口づけをした。
唇から伝わる一真の冷たい体温。
唇から与えるあたしの体温。
唇を離しても唇に残る冷たいもの。
その唇を開いたあたしは、
「__…さようなら」
一真に永遠の別れを告げた。
背を向けて、振り返らず霊安室を後にして自分の病室に戻った。
先生も中に入ろうとしたけど「1人にさせてください」と伝えたけど「だが…」渋られた。
それはきっと1人になれば色んなものが押し寄せてきて精神が保てなくなり自分を傷つけてしまう行為をするんじゃないかと疑ってるんだろうけど、あたしは「絶対死のうとしないので」と約束をして1人にしてもらった。
けど1人になったらやっぱり色々考えてしまう。