忘愛症候群
「一真…」
一真、返事して。
返ってこないと分かっていてもそう願ってしまう。
好きって…言って。
「あたしは好きだよ」
ずっと、ずっと好き何があったとしてもあたしの一番はこれからも変わらない。
一真以外の一番なんて考えられない。
「あたしだったら…よかったのに…」
頬をしたたり落ちた一粒の涙は床へと重力によって引き寄せられ弾けた。
「苦しい思いをしたまま逝っちゃうなんて、やだよ…」
代わりにあたしが苦しんで死にたかった。
何で一真が死ななくちゃいけなかったの。
「あたしが…し___」
「愛!!」
自暴自棄になりかけあることを言いかけた時、タイミングがいいのか悪いのか…お父さんとお母さんが病室に入ってきた。
「あいっ…!」
「よかった、先生から記憶が戻ったって連絡が入って」
2人はあたしを勢いよく抱きしめると涙を流しながらそう言った。
何度も「よかった」と言い。
何度も「愛」とあたしの名前を呼んだ。
「よくないよ…記憶が戻っても嬉しくないよ…」
「愛…」
お母さんは悲しげにあたしの名前を呼び。
「先生から、聞いた……一真くんが__」
「言わないでッ!!!」
お父さんに悪気はないのは分かっていてもそれを言うことをあたしは許さない。
あたしが大きな声で制したためお父さんはそれ以上何も言うことはなかった。
「愛、先生がね…退院してもいいって…」
何も話さないお父さんの代わりにお母さんが遠慮がちにそう告げた。
「分かった」
1つ返事で承諾して身支度を簡単に済ませるとあたしはさっさと病室を出て病院さえも早足で出た。
ここにいたらあたしが可笑しくなりそうだった。
ここにいたら絶対一真の所に行ってやるって気持ちが大きくなっていた。
“彼から何通もの手紙が届いてるはずです。それを全て読んでから、気持ちが変わらなければ…また俺のところに来てください”
あのとき先生が言っていた言葉を思い出す。
記憶のないあたしが一切読もうとせず拒否し続けてた手紙。
ほぼ毎日届いてたから20通はありそう。
「お母さん」
「何?」
「一真からの手紙って…捨てた?」
あの時どれだけ捨ててって言ったか覚えてない、けどしつこいくらい言ってた…だから捨ててる可能性だってある。
あたしの希望は少なかった。
「ちゃんとあるよ」
だけど、それでもお母さんは捨てずに、あたしに見つからないように隠してとっておいてくれてたらしく、あたしの涙腺がまた緩んだ。