忘愛症候群


「…っ、うぅぅっ…あり、がと…」

「うん。帰ったら愛に渡すね」

「…っ、うん」



お父さんの車に乗り込んでからも泣いていたあたしは、家に着いても泣き止まずお母さんが手紙を渡してくれた時はさらに泣いた。



「お母さんたちは下にいるから、部屋でゆっくり読んどいで」

「うん…そうする」



この手紙読んでしまったら明日顔が見れないくらい泣きそうだから部屋に籠って読もう。


手紙は気の箱に大事に保管されていた。


その箱を抱きかかえ部屋に入ると蓋を開けてどれを先に読もうか、なんて迷いはなく1通手に取ると封を切って読み始めた。




“渡辺 愛へ

俺のこと忘れちゃってるから好きとか言われても困るんだろうけど、俺は一応愛の彼氏だから。

昨日はね、ケンとトモカがケンカして大変だったんだ。

て言ってもただのバカップルのケンカだしすぐいつも通りになるんだけどね。

ケンカの理由がこれまたくだらなくて…”




あ…一真の毒舌な部分でてるよ。




“目玉焼きは醤油かソース勝手だけのくだらないケンカ。

ケンはソース、トモカは醤油ってお互い譲らなくてすっごい言い合いしてさ。

で、なぜかケンが「一真はどっち派だ」なんて巻き込んでくるもんだからイラッときちゃった。

俺、なんて答えたと思う?”




一真が目玉焼きにかけるものくらい知ってて当然だよ。

塩、でしょ。



“俺、塩派だからそう答えたら「マジかよ」てショック受けられた。”




そんなの知ってて当然だよ。
あたしは醤油派だけどね。


でもあたしと一真はそんなことでケンカしたことなかったね。




“人には人の好みがあるからそれは覆らない。”




この言葉はあたしが言っていた言葉。
一真覚えててくれたんだ。




“俺さ、愛の作ってくれる料理が死ぬほど好きなんだよね。

これからも作ってくれないかなとかそんなこと思っちゃうくらい。

味の好みには人それぞれあるけど、俺愛の味付けが好きだよ。”



「っ…ほんと、狡いなぁ…」



学校でのこと。

ケンやトモカ、他の友人と遊んだ時のこと。


愛は今年の夏休みどこに行きたい?去年海に行ったとき水族館に行きたいって言ってたから時間あるときにでも行こうか、とか。



色々詰まってた。



最後には必ず“俺は愛が好き。嫌われていようと、どう思われていようと愛しか愛せない。”



やっぱり涙を流さずに読むなんてできっこなかった。


涙を流しながら残りも読み進めていくけど後半になるにつれて胸を締め付けられてしんどくなった。


あたしのことばっかりで。
あたしを想う言葉ばっかりで。



あの状況でも、どれだけあたしのことを想い続けてたのが一目瞭然なないようだった。


< 66 / 83 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop