忘愛症候群
あの日から3日後、検死を終えた一真の遺体は家に帰ってきたらしく。
通夜も終えた今日は、告別式。
告別式にはたくさんの人が一真に別れを言いに来ていた。
あたしは親族でもなんでもないタダの彼女なのに、一真の両親はお通夜にも呼んでくれて、今日はその両親の隣にあたしはいる。
病気と言えど、あたしは一真に酷いことをし続けていたのに彼のお母さんは、
「愛ちゃんも辛かったでしょ。一真も辛そうだった、けどどこか幸せそうだったの。うちって娘がいないでしょ?だから愛ちゃんはもう、うちの娘みたいなものなの。可愛くて仕方ないくらい。だからここにいてもいいのよ、ううん…ここにいてちょうだい」
優しい声でそう言った。
その言葉に一粒頬を涙が伝ったけどわんわん泣くことはなかった。
一真に別れを言いに来た列に目を移すとケンとトモカがいた。
2人はハンカチで目元を押えながら泣いている。
一真が亡くなった次の日から色んな人から連絡が入って、その中にケンとトモカからも心配の声が入っていたけど連絡が取れる状態じゃなかったから、今の今まで何も話していなかった。
一真が亡くなったから会うのも、話すのもこれが初めて。
告別式が終わり外に出ると予想通りケンとトモカがあたしを待っていた。
「久しぶり」
先に声を掛けたのはあたしの方で、びっくりするくらい声は震えていなくて、むしろ凛としたような声が出た。
「…っあ、愛」
トモカは気まずそうにあたしを呼んだ。
「あのな、一真はね愛の___」
「知ってるよ」
「「…え?」」
そう言ったあたしの言葉に驚きを隠せない2人は間の抜けた声を出した。
「知ってる。あたしの彼氏だもん」
「愛っ…愛、なんで」
「お前、思い出した…のか?」
戸惑うのも無理はないよね。
2人の中であたしはまだ一真を忘れたままだと思っているだろうから。
「うん、全部思い出した。6日前にだけど…」
「6日前って…」
トモカが言葉を詰まらせた理由は一真が亡くなった人被っているからだろう。
「本当ショックだったよ」
「……」
「やっと思い出せた、嬉しいって思ったらドン底に落とされたんだもん」
「……」
「あたしを置いていっちゃうなんてさ…狡いよね」
___あたしも連れて行ったらよかったのに。
言葉にはしなかったものの2人には十分に伝わってしまったと思う。
顔を2人して歪めたから。
「愛、思いつめすぎてアイツのこと追いかけようとするなよ」
「大丈夫だよケン。あたしは生きるから。息絶えるその時まで生き続ける」
「…愛」
「“死ぬなんて考えるな”一真の最後の手紙にそう書いてあったから」
「最後の手紙…?」
どういうこと?と言いたげな2人に軽く微笑んであたしは話した。
一真の“最後の手紙”の内容を。
「…んだよそれ。まるで自分が死ぬことが分かってたかのような内容は」
ケンも…そう、おもうよね。
あたしも不思議で堪らなかったどうして死期を悟っていたのか。
「その理由(ワケ)を先生が知ってるらしいから今から聞きに行こうと思って」
「そうか…」