忘愛症候群
2人に「じゃあ行くね」と言って去ろうとした時、トモカがあたしの制服の裾を掴んで引きとめた。
「どうしたの?」
「愛、大丈夫なの…?」
「なに、が?」
「だって愛…泣いてない…」
気づいたか…気づかれちゃったか。
トモカもケンも泣きすぎて目も鼻も赤くしているのに、あたしだけいつもと同じだもんね。
「泣けないんじゃなくて、泣かないだけ」
「どうして…」
泣いていいんだよ?そうトモカの目が言ってる。
「あたしは、昨日まで散々泣いたから…一生分の涙を流したんじゃないかってくらい泣いたの」
「……愛」
「だから、せめて最後だけは笑ってさよならしたいじゃん。一真とは早すぎる別れで長い間のお別れだけど、あたしが年老いて死んだときあの世で会えるから」
こういうものの考え方は普通だろうか。
それともおかしいと言うだろうか。
「最後まで悲しい顔してお別れなんて嫌だなって思ったから、だから泣かなかった」
あたしは細く笑って見せた。
「それに一真はまだ生きてる」
「生きてる?」
何言ってるの?て顔だね。
あたしは突き出した人差し指を自分の胸に当てて見せると瞳に2人を映す。
「あたしの“ここ”で一真は生き続けてる」
あたしが生きている限り、一真はあたしの中にいる。
いつだってあたしの一番でいる。
「一真が完全に死ぬときは___あたしが死んだとき」
あたしの重すぎる愛を聞いた2人がゴクリ___息を飲んだのが分かった。
「ごめん。あたしそろそろ行くね」
約束の時間に間に合わなくなってしまう。
「あ、あぁ」
「ま、またね。。愛!」
ケンとトモカに手を振って別れあたしは先生のいる病院に向かった。
風があたしを押し返すように横切っていく。
向かい風だろうが関係ない、あたしは負けない。
___…道は前にしかない。
___…あたしは前に進むしかないから。