忘愛症候群
___…え?
「先生、何を言って……っ」
これは冗談なんかじゃないって目が言ってる。
本当…なんだ。
「じゃあ、あたしの記憶が戻ったのは…」
「一真くんの死が治る唯一の方法だったんだ」
そんなことって…そんなことってっ。
「うぅっ…」
あたしは手両手で顔を覆って俯いた。
「だから一真は、あんなっ…手紙を」
だから傍にいることはできないって。
見守ることしかできないって。
自分は死んでしまうって分かっていたんだ。
「愛する者の死、それが病気を治す唯一の対価。これ以外に治す方法はないんだ」
「先生の言っていた意味が、ようやく分かりました…」
「……」
「それでも…それでもあたしは___生きます」
あたしが死んでしまっては意味がない。
あたしが死んでしまったらあたしの中にいる一真が死んでしまう。
そんなことはしない。
「そうか…よかった」
「あの、先生」
「なんです?」
「あたし、もう誰にも恋しません」
「え?」
「て、言いたいところなんですけど恋って落ちるものだから、もしかしたらしてしまうかもしれないですけどね」
まぁ…恋なんてしばらくしたくないし、叶うことなら一生しなくていいけど。
「一真が最後の手紙で望んだんです。好きな人を作ることも、結婚することも」
だけど…あたしは薄々感じてるんです。
「愛さん、忘愛症候群は発病したら二度と完治しないんです…」
きっと、そうなんじゃないかって。
「やっぱり、そうなんですね」
落ち込むというより、どこか安心しているあたしはおかしいのかな。
完治しないと聞いて“一真以外の人を想わなくていい”そう思ってしまった。
「先生、教えていただきありがとうございました」
一口も口にしなかったピーチティーを飲み干して「それでは」と席を立った時、先生が「愛さん」と呼びとめた。