忘愛症候群
「渡したいものがあるんです」
「渡したいもの、ですか?」
あたし先生から何かプレゼントされるようなこと何もしていないのに。
と心当たりがなさ過ぎて首をかしげた。
「これを渡したかったんです」
そう言って先生が差し出してきたのは所々赤いシミがついた白い小さな箱に、夏らしいハイビスカス。
「これ、は…?」
「これは事故当時、一真くんが持っていたものです」
「一真の遺品…」
「と言うより、貴女へのプレゼント…俺はそう思いますよ」
何故そう思うんですか?そう問う前に「箱の中を見てください」そう言われ箱を手渡された。
恐る恐る箱を開けるとそこにはシンプルなゴールドリングがあった。
「これって…」
あたしが病気になる前欲しがっていた指輪。
覚えてくれてっ…まさか、本当に買ってくれるなんて。
「リングの内側を見てごらん」
言葉通りリングの内側を見てみればなにか文字が彫られている。
その文字を見てあたしは無意識に涙を流していた。
“I think of you forever.”
「…ッ、かずま…ほんと、ずるっ…」
それから箱の内側にもう1つメッセージが書かれていてあたしは目を見開いた。
“happy birthday AI”
あたしの、誕生日。
自分の誕生日なんて忘れていた。
一真はあたしにこのプレゼントを渡すためにっ。
泣かないって決めたのに、ポロポロと涙が流れる。
「我慢しなくていい」
「うっ…ふぅぅっ…」
「泣いていいんだよ」
「かずっ…かずま、一真ぁぁっ…!」
先生の言葉に涙腺を緩めてしまいさらに大粒の涙を流し、わんわん声を上げて泣いた。
先生はそんなあたしをやさしく包み込んで、泣きやむまで頭を撫でてくれていた。
「…ありがとう、ございます」
泣きやんだあたしはそっと先生から離れ頭を下げた。
まさか先生の前でこんなに泣いてしまうなんて…。
「ねぇ愛さん」
「はい」
「その花、どうしてハイビスカスだと思います?」
先生は突然、あたしが持っている真っ赤なハイビスカスを指さして、そう訊いてきた。
どうしてって、そう言われても答えは見つからず頭の中でぐるぐるする。