忘愛症候群
お手上げ状態のあたしは首をかしげると先生は言った。
「ハイビスカスの花言葉ってご存知ですか?」
「ハイビスカスの花言葉、ですか?」
バラとか向日葵とか、桃とか王道の花言葉なら知ってはいるけどハイビスカスの花言葉は知らなかった。
「ハイビスカスの花言葉はね」
“繊細な美、新しい恋”
「繊細な美…新しい、恋」
「どういう理由でこの花を選んだかは俺には分からないけど……愛さんには伝わったみたいだね」
「はい。あたしにしか伝わらないメッセージです」
これが一真が伝えたかった言葉なのかな。
「先生ありがとうございました」
今度こそ帰ろうと踵を返した。
病院を後にしたあたしは信号待ちでハイビスカスを見つめていた。
「ハイビスカス、か…」
赤く、紅く燃えるような色の花。
「新しい恋」
あたしだけの一真からのメッセージ。
一真はきっとこう伝えたかったのかな、と思うことが2つある。
1つは、何度忘れようと何度忘れられようと…何度でも俺と新しい恋をしよう。
もう1つは、俺がいなくなってしまっても愛は誰かを愛し愛されるような新しい恋をしてほしい。
___…一真から最後の嬉しさも悲しさも感じさせる無言の言葉。
「一真、あたし頑張るよ」
だからずっと見守ってて。