忘愛症候群
___ついに来てしまった、美波高校。
服装大丈夫?髪型大丈夫?
全体的に大丈夫?
念入りにチェックして出てきたはずなのにそれでも気になって仕方がない。
あたしの横を登校する生徒がチラチラ見ながら通り過ぎていく。
「ふぅ…」
胸に手を当て深呼吸をすると門をくぐり職員室へと向かおうとした時だった。
「カズマー!おっはよ!」
え、カズマ?
下を向かせていた顔をばっと上に勢いよくあげたけど男子生徒はどこにでもいるし、どの子が「カズマ」と呼ばれた子なのか分からなかった。
「違う。一真はあたしの中にいる。たまたま名前が同じだっただけよ」
こんなのいちいち気にしてる場合じゃないでしょ愛。
そう自分に言い聞かせて職員室へと踵を返した
職員室に入ると近くにいた同じ3学年担当のおっとりした佐藤先生に挨拶をする。
「おはようございます」
「おはようございます渡辺先生。緊張されてます?」
「それは、もちろん。いきなり3年生の担任をするなんて思ってもみなかったですから」
1年目で担任させるなんていじめか!て言いたいし、いきなり3年生とかいじめか!ってやっぱり言いたい。
そんなこと口が裂けてもも言えないけど。
「でも渡辺先生なら大丈夫な気がします。そんな気を張らないで、肩の力を抜いてやってみてください」
力が入りすぎて逆に失敗しちゃうわよ、私みたいに___佐藤先生は自分の失敗談を交えながら笑ってあたしの緊張を少しほぐしてくれた。
経験者は語る、か。
それなら少しくらい肩の力緩めてみてもいいかな。
佐藤先生のおかげでそう思え、楽になった。
自分の席に座ると挨拶の言葉や色々考えた。
初日から何かやらかさないかな、大丈夫かな。
落ち着いてあたし、落ち着くのよ。
「よし、頑張るぞ」
グッと拳を作り気合を入れるとちょうど鐘が鳴り、あたしは気を引き締めて自分が担当する教室へ佐藤先生と向かった。
3-Cと書かれたクラスの前で足を止めて一呼吸。
「佐藤先生、頑張ってきますね」
「はいっ、渡辺先生ならやれます!後でお話聞きますからね!」
あぁ、なんて可愛らしい人なんだろう。
童顔でもあるし仕草も話し方も可愛いから全然30歳に見えない。
そんな可愛らしい佐藤先生はぶんぶん手を振って自分のクラスである3-D、つまりはお隣のクラスに行ってしまった。
「おはようございます」
挨拶をしながら教室の中に入ると皆自由にお喋りをしていて「いやそこ自分の席じゃないだろ」と言いたい子が数人いる。
「席についてください。あたしの自己紹介するので」