八木澤くんは不器用に想う
「そういう口説き文句はわかったから、
早く帰って体温めた方がいいよ」
「いや…口説き文句って…」
東雲くんの言葉を本気にしても仕方ないし、
家のドアを開けて、玄関に置いてあった傘を取って東雲くんに渡した。
「これ、明日返してくれればいいから。
使って」
「……ありがと」
何か気に入らないことがあるのか、ちょっとだけ不服そうな顔をする東雲くん。
私から傘を受け取って開くと、うげ、と声を漏らした。
「ピンクのネコ柄…恥ずかし」
「それしかなくて」
「いや…ありがとう。
大事に使わせてもらいます」
『初ちゃんも風邪ひかないように温かくするんだよ』と私の頭を撫でてから、
東雲くんはピンク色の傘をさして雨の中を歩いていった。