素直になりたい。
私は黒柳さんの瞳を見つめた。

その瞳には今にも溢れそうな想いが形として存在していた。

きっと、黒柳さんは本気で櫻庭に恋していたのだろう。

お金で繋ぎ止めることだって出来たはず。

それなのにしなかった。

それは潔く負けを認めたからだ。

そんな黒柳さんを

私は...

私は...

抱き締めたい。


「黒柳さんっ」

「うわっ!い、いきなりなんですの?!」


私は黒柳さんを抱き締めた。

強く強く。

黒柳さんが壊れていかないように。

傷付いた心から流れる血が

少しでも温かくなり、

全身を巡るように。


「もお!なんで、わ...わ?」

「鷲尾です」

「そう!わ、鷲尾さんはこんなに優しいんですか?も、もお!泣いちゃいますよ~」


黒柳さんは私の胸で泣いた。

甲高い声で、

まるで赤ん坊のように、

純粋に、

本能の赴くまま、

泣いていた。

生田くんと匠望くんはイヤホンで耳栓をし、

千咲ちゃんは苦笑いしながらも見守っていた。

この旅で得たものも、

失ったものも、

全てが尊い。

全てが私になる。

見たものも、

触れたものも、

感じたことも、

全て...

大切、なんだ。

だから、

だから、私は

後悔しない。

また、真っ直ぐ前を向いて

歩いていく。


だから、櫻庭。

あなたも前を向いて

あなたの道を歩いて。

大切なものをしっかりとその手で

握りながら

走って。

海を眩く照らす

太陽に向かって。
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