素直になりたい。
「千咲ちゃん、ありがとう」

「どうしたの?セリフ全然違うけど」

「あっ、ごめん...」


本番まで残り2週間となり、演技班はセリフの読み合わせをして徹底的に頭に叩き込んでいた。


「ちょっとぉ、さっきから鷲尾さん間違えすぎ」

「もっとちゃんとやってよ」

「ちょっと、河野さん、戸塚さん。直禾ちゃんだって真面目にやってるんだから、そんなこと言わないであげて」


千咲ちゃんはいつだって優しい。

それが逆に苦しい時もある。


「千咲ちゃん、ありがとう。でも、今のは完全に私のミスだから」

「でも...」

「すみません。もう1回、お願いします」


そういって何度も何度も繰り返し練習をした。

昔から、劇をやっても、木とか石とか、感情もセリフもない役ばっかりやらされていたから、私にとってはこれが初舞台みたいなもの。

その初舞台の役が、まさか白雪姫を陥れる最低最悪の継母だなんて思ってもみなかった。

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