素直になりたい。
「あの、2人で話してるところで悪いんだけど、ちょっと直禾ちゃんいいかな?」


私に話しかけてきたのは、天羽くんだ。

毎度ながら、麗しい目に見とれてしまう。

こういうのは、いつまでも慣れないらしい。

私は天羽くんの2歩後ろを着いて廊下に出た。


「突然なんだけど、直禾ちゃん明日暇?」

「明日は大丈夫。明後日から冬休みだからがっつりバイトだけど」

「ならさ、また映画見に行かない?ほら、今月テスト勉強が忙しくて行けてなかったじゃん?」


そういえば、そうだった。

これまでも何があっても1日は一緒に見ていたのに、今月はそうもいかなかったんだよね。

3年生は校内最後のテストだったし、卒業の合否もかかってたから手抜き出来なくて。

でも、それだけ頑張ったんだから、1日くらい羽を伸ばしても良いよね?


「うん、いいよ」

「学校午前で終わるから、お昼食べて15時くらいの見よっか。そしたら、終わった頃にはちょうどイルミネーション始まってるだろうし」

「そうだね。良いと思う。誘ってくれてありがとう。楽しみにしてるよ」

「オレも。じゃあ、また明日ね」


私が手を振れば振り返してくれる。

名前もちゃんと呼んでくれる。

手を伸ばしても一生手に届かないと分かっているから、私はあえて手を伸ばさない。

もうこれ以上、傷付きたくないから。

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