素直になりたい。
そして、私はその複雑な心をひきずったまま、翌日を迎えてしまった。


「直禾ちゃん、今日の映画も面白かったね」

「あ、うん。そうだね。すっごく面白かった」


映画とちょっと別のことに気を取られていて、笑顔がぎこちなくなった。

でも、面白かったのは確か。

今日はクリスマスイブだからか、

少しだけ奇跡が起こった。

いつもと同じ映画館で、

いつもと違う映画を見たんだ。

今日は初めてラブコメを見ることができた。

私が提案したのではなく、なんと天羽くんから。

クリスマス公開に合わせて作られたラブコメは、私がニヤニヤ出来る要素が満載で、1人ですっごく盛り上がってた。

1人でというのも、周りの人たちはわりと冷めた目で見ていて、"こんなくだらない話にお金かけるつもりで観にきたんじゃない!"と叫ぶおじさんまで現れたほど。

面白かったのになぁ。

何がいけなかったんだろ。

なんて、考えていると、ふいに右手が盗まれた。

そして、ポケットの中に吸い込まれる。


「えっ...」

「こうした方が暖かいでしょ?」


このさりげない優しさが心地よい。

私が感じてはいけないものなのだろうけど、今日はクリスマスイブだから、特別にオッケーということにしよう。

思う存分、暖めてもらいます。


「じゃあ、イルミネーションは東京駅に行こっか。あそこ綺麗みたいだし」

「うん」

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