素直になりたい。
もらおうと手を伸ばすと、一瞬で消えた。

えっ?

どこいった?

左右前後をキョロキョロし、無いと分かって上を見ると


――パチンッ!


「いっ、たぁ...」


デコピンされた。

痛い。

ジンジンする。

私はおでこを撫でた。


「あっはっはっは!は~、はっはっは!」

「もぉ、ほんと最悪っ!どっか行け、このドS悪魔!」


それでも尚、櫻庭は笑い続ける。

一体この人はどんな神経してるの?

人のことからかってそんなに楽しい?

この前は見直したけど、やっぱり櫻庭は最低なやつだ。

見直した私が損した。


「うるさい。笑うのやめて」

「面白すぎ。は~、はっはっは!あはははは!」

「いい加減にして!」


叩いてやろうと思って手を振り上げたけど、すんでのところで止めた。

ふわーっと春風が吹いて頬をすり抜ける。

櫻庭のさらさらの黒髪が揺れて、誠に不本意ながら、胸がキュンとしてしまった。

怒る気力が削がれた。


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