素直になりたい。
「そんな急いで話さないで」

「お母さん...」


母は泣いていた。

私が受験勉強をしている時は、常に怒ってばかりいて毎日毎日ピリピリしていたのに...。

母も何かから解放されたみたい。

母は母なりに感じていたんだ。

責任とか重圧とか。

そういう人間の精神をすり減らすものをいくつも背負っていたんだ。

今さらだけど、分かったよ。

母の痛みが今なら分かる。


「直禾、ごめん。お母さんのせいで苦しめて」

「違うよ、お母さん。お母さんのせいじゃない。お母さんのお陰で私は苦しんだ。お母さんが厳しかったお陰で私は強くなれた。ありがとう、お母さん」

「直禾...っ」


お母さんは涙を滝のように流した。

お母さんの涙がぽたぽたと私の頭に降り注がれる度にごめんって思った。

だけど、同時にお母さんの愛が落とされて、全身に通い、満ち足りた気持ちになった。
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