素直になりたい。
夕飯の準備があらかた終わった頃、廊下からカタカタとスリッパの音がした。


「ただいま~」


久しぶりの父。

いやぁ、中年太りしちゃったねぇ。

ちょっとがっかり。


「あっ、お帰り」


それでも笑顔で迎える。


「えっ?直禾っ?直禾なのか?!会いたかったぞ~」

「お父さん、ハグはやめて。加齢臭が...」

「そ、そそ、そんな...」


父は腕や脇の下を嗅ぎ出した。

娘の言葉を本気にするなんて、とことん冗談が通じない父だ。

父の面白い反応を見られて満足した私は父に言った。


「嘘だよ。ぜんっぜん、臭くない。いいよ、思いっきり抱き締めて」

「うぅ...うわ~ん!ありがとう、直禾!大好きだ~!あ~ん!」


大泣きする父は歳だけとった子供のようだった。

でも、そのフォルムは世界的に有名な黄色の熊そのものだった。

< 358 / 372 >

この作品をシェア

pagetop