素直になりたい。
それからも時々近所のご老人に話しかけられながらも接客と販売を進め、あっという間に閉店時間を迎えた。

私はお店の札をクローズにし、店の前の掃き掃除をする。

その間に祐希さんは残ったパンの回収と掃除、店長がお金の精算にかかる。

果たして今日はいくら売れたのか。

気になる...。

どうか、6万に到達していますように!


「おーい、何お願い事してんの?」

「げっ」


声で分かった。

まさかこんな時間にやってくるとは。

空気読めなさすぎでしょ。

私は無視して手を動かし続ける。


「鷲尾、まだやってる?俺、買いに来たんだけど」

「えっ?」


顔を上げると、やつが淡いオレンジ色の電灯に照らされていつもの何倍も顔が鮮明に見えた。

不覚にもドキッとしてしまい、ホウキを手放しそうになる。


「あのさ、聞いてる?」

「あっ、はいはい。もう店仕舞いしたから無理。お引き取りください」


駅の方に手をやると、櫻庭はふっと笑った。


「引き取るのはパンだな。ちょっと入れてもらう」

「いやっ、ちょ、ちょっと」


櫻庭は私の言葉なんてまるで気にせずお店のドアを開いた。


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