素直になりたい。
「櫻庭っ」


私は櫻庭の腕を掴んだ。

やられたらやり返す。

0.5倍返しだけど。

櫻庭は前を向いたままだ。

きっと見せたくないんだ。

その気持ち、分からなくもない。

私も...そう思うとき、あるから。

結構な割合で、そうだから。

私は下唇を噛んで、迫り来る感情を抑えてから口を開いた。


「私のこと、散々バカにしてきたくせに何でそんな顔するの?

櫻庭こそ、弱いやつじゃん。全然...全然、カッコ良くないよ。すっごくダッサイよ。

でも、でも......分かる。私には分かる。櫻庭が泣きたい理由も隠したい理由も分かる。

分かっちゃってるから、だから......だから、その......私の前では我慢しなくていい。泣いていい。

だって、私だって櫻庭の前で泣いちゃったし、これでおあいこだよ」


私の言葉に涙腺が弛緩したのだろう。

櫻庭は膝から崩れ落ちた。


「くそっ......くそっ......」


地面に拳を叩きつける。

何度も何度も固いアスファルトを叩く。

私は止めなかった。

ただ見守った。

気の済むまでやらないと、

胸の中で渦巻く負の感情が払いきれないことくらい、

私が1番良く知っていたから。

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