素直になりたい。
「鷲尾は俺のこと嫌い?」

「...えっ?」


驚いて振り返ると、櫻庭は私を真っ直ぐに捕らえていた。

ぎゅーっと胸が狭くなる。

呼吸が出来なくなる。

この瞳は凶器だ。


「嫌いなんだよな、今でも」

「そ、そりゃあもちろん...」

「でも、俺はさ...」


櫻庭が立ち上がり、私の方を見つめたまま言った。


「鷲尾のこと、嫌いじゃない。むしろ......」


そう言って立ち上がり、先を行ってしまう。


「送ってく」

「ちょ...待って」


最後の一言は良く聞き取れなかったけど、

でも、でも...

嫌いじゃない、って、それだけははっきり聞こえた。

あんなにいじめていたのに、嫌いじゃないってどういうこと?

私、少しは見返せたってこと?

ねぇ、櫻庭、

どういうことなの?

説明して。


って、そう聞ければ良かったのだけど、

あと少し、勇気が足りなかった。

ここで聞いてしまったら、

何かが壊れてしまう気がして。

壊れてそこから光がみえて

そこから何かが始まってしまうような

そんな気がして。

やはり私はまだ光に向かって歩いていけない。

そんな勇気はまだ持ちたくなかった。

知りたくなかった。

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