素直になりたい。
と言っていられたのも、券売機までだった。

遠目から見てなんとなく察しは付いていたのだけど、近づくに連れ、それは確信に変わった。

私は予期せぬインベーダーを発見してしまった。


「直禾ちゃん、あれってもしかして......櫻庭くん?」

「えっ?い、いや、まさか...」


なんて言って否定したけど、間違いない。

あの後ろ姿はまさに櫻庭新大そのものだ。

何度も見てるからさすがに覚えた。


「声かけてみよっか?」

「え、いや、でも...」


天羽くんが無邪気に駆け寄っていく。

こんな姿、櫻庭に見られたら絶対バカにされる。



――何、張り切ってヒール履いてんの?

――まともにしてこともない化粧なんてしてどうした?

――ま、頑張ったところでハムはハムだけどな。



あぁ、聞こえてくる。

幻聴なのは分かってるけど、このままではいけないと心が叫ぶ。

そして、足が動く。


「天羽くん、ちょっと待っ...」


あ。


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