素直になりたい。
「何?」

「あ、いや、別に何も。いや、何もではないけど。ま、いいや。とりあえず帰ろう。うん、そうしよう」


歩き出そうとするものの、予想通り腕を掴まれる。

毎回だ。

毎回、私を逃がしてくれない。

それなのに、こんな気持ちにばっかりさせる。

ずるいよ。

櫻庭新大っていう人間は

とことんずるい。


「はっきり言えば?」

「何を...」


櫻庭は腕を離し、私の目の前までやって来る。

そして、その透き通った純黒の眼差しで私を見つめる。


「俺のこと、知りたいって」

「は?い、いや、知りたくなんてないし。そ、そんなこと言ったら、な、なんてかその...櫻庭のこと、す、すす、すすっ...」

「ほんと、大事なことは言葉に出来ないんだな。余計なことは良く話すくせに」

「は、話さない。私、口固いし、クラスでほとんど喋んないし。口数少ない方だよ」


なんて言っておきながら、気づく。

私、今良く喋ってるじゃん。

こんなにべらべらと大声で喋ってるじゃん。

なんで、なの?

ほんとに、なんで?

どうして?

どうして?

どうして...?

どうして、

櫻庭、なの?
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