i -アイ-
「ベンチの下だ」
「助かる。報酬は口座に振り込んどくよ」
それだけ聞いてその男は離れていく。
「よし、クレープ食べたし、帰るかぁ。」
そう立ち上がる瞬間にベンチの裏側に貼り付けてある封筒をとり、カバンに入れる。
「お前、……あいつ」
ここで話していいものなのかをあたしの顔色を見て伺う蓮。
「ごめんな?気になるよな。でもクレープが食いたいからあそこに呼んだだけであって、クレープが主役だから。」
「そんなんは、どうでもいいんだよ。あいつは」
「蓮って、声覚えるの得意なんだな?」
そう言えば、蓮はあたしの腕をガシッと思いっきり掴む。
「どういうことだ。ちゃんと言え」
「全部終わったら、な」
掴まれていない方の手で、蓮の頭を撫でる。
「今、あいつの名前を言うのはリスキーすぎる。俺にとってもあいつにとっても。あと一足分、足を置く場所を間違えれば俺らは奈落の底だ。分かるか。そんな危ない橋を渡って、あいつは俺の頼みを飲んだ。それがあいつにとってもメリットになるからだ。」
少しずつあたしの腕を握る力を緩める蓮。
「詳しくは話せないが、これで察せ。良い悪いじゃない。少しでもメリットになるものなら使う。自分の尻拭いを自分で出来るやつしか、リスキーなことはしちゃいけねえけどな?分かったか?」