i -アイ-
このスマホは久遠藍人用。
番号の情報は回らないようにしてあるはず。
まあ、穴はあるか。
「どうした」
司さんがあたしに声をかける。
「いや、ちょっと失礼」
屋上を離れようと背を向け、電話に出る。
「……もしもし」
『ああ、良かった、出たな』
その声に、足を止める。
久しぶりに聞くその声に、あたしは座り込みそうだった。
ずっと気を張っていたのだと、その時気付く。
『どうだ、元気か』
「はっ…あはは……びっくりしたぁ」
短く息を吐いて、やっと言葉を発する。
『ぁあ?まだ2ヶ月そこらだろ?くたばってんのか?』
利人さんだ。
「くたばってないよ……でも声聞いたら」
『……ん?』
利人さんに会いたくなっちゃったな。
帰りたくなっちゃった。
でも、それは言わない。言えない。
「安心した。元気そうで」
『そうでもない。いつも顔合せてた奴に2ヶ月会わないとそこそこ調子狂うもんだな』
寂しいって言わないあたりが利人さんだな。
「あはは、寂しいんだ?でも、近々会えるよ。」
『……来るのか』
「うん。」
そう答えて、皆の方に向きかえる。
5人ともあたしを見てる。
5人を見て、ふっと笑う。