i -アイ-
碓氷司side
賢い奴は演技が上手い。
そう言った久遠は、コロコロと表情が変わる。
どれが本当でどれが偽りなのか。
俺には全て偽りに見える。
信じることの難しさを痛感する。
三國をいとも簡単に倒した。
その現実に、日差しの暑さも感じず、脳と体が繋がっていないような気がしてくる。
けれど、相手の分からない通話で話している言葉や表情は自然で、本物のように思えた。
何故か機嫌の悪い三國と暁。
暁はまだしも、三國がここまで感情を露わにするのは久遠へぐらいだ。
そして久遠からは、痛いほどの殺気が漂う。
思わず嗚咽を漏らしたくなるほどの殺気と、どんどん下がっていく温度。
その時、プツンとその空気が変わった。
久遠が後ろを振り向き、無言で屋上の扉まで歩いて出ていく。
どういう事か分からず、俺らはその扉を見つめる。
すると、久遠がまた顔を出し、
「ごめん!呼ばれたから行く」
そう言って出ていった。
「 i は音でその場所に向かう。か」
優介がそう呟く。
「本当にあいつが i なんだな。」
「あいつは昔から耳がいいんだよ。多分、今も足音が聞こえたんだろうな」
暁が扉を見たままそう呟く。