i -アイ-
煌びやかな衣装を身にまとった招待客が緩やかに流れ込んでくる。
上品な会話や笑い声。
今日の雰囲気に合わせて、あたしの接客の仕方も工夫する。
「ねえ、あれ藍人くんじゃない?」
そんな声もちらほら聞こえる。
前髪上げて眼鏡かけてるけどやっぱバレるよね。
そんな中、会場に緊張感が漂う。
その訳は、会場の入口を見ればすぐに分かる。
「榊の総帥が来たな?隣は息子さんの暁くんか」
榊亮と、息子の榊暁。
黒木尚也はそこそこ顔が広い。
自分の誕生パーティーを開くくらいだ。
榊の先代に世話になっていたらしく、亮さんにも好意的。
だからこのパーティー自体は危険かどうかは懸念していない。
まず最初は場が落ち着くのを見定めて、落ち着いたらシャンパンやフルーツ系のジュースを持ち、するすると人の間を通りながら声をかけられるのを待つ。
「お酒じゃないものを下さい」
後ろから声をかけられ、振り返り、顔を見て、
「かしこまりました。お持ちしたのはジンジャーエールとグレープフルーツジュースですが、それ以外も___」
「え?藍人?」
あ、バレた。
「どれがいい?」
変わらず笑顔で聞く。
「え?あ、ああ、ジンジャーエールで」
「こちらです」
滝谷だった。
紺のスーツ。似合うなぁ。