i -アイ-
でも今はそこそこ楽しいな。
そこに居る人がどの家の人で、どんな境遇でここに居て、どんな性格の人なのか。
大体の情報は頭に入ってる。
なんの利益を求めて誰と会話をしているか。
見える。
「そんな目してるスタッフ居ねえぞ」
耳に入った声に、ふっと自分に戻る。
「申し訳ありません」
横からの声に、軽く礼をする。
さっきの視線の正体。利人さんだ。
唯一怖い視線の正体。
あたしだけに聞こえるように呟いた。
「シャンパンを」
「かしこまりました」
シャンパンを利人さんに渡して、ビジネスじゃない笑顔を向ける。
久々に会った利人さん。
ツナギもかっこいいけど、やっぱスーツがかっこいいな。
利人さんへの熱い視線が至る所から集まる。
イケメンでやり手で大手の次期取締役、そして35歳という結婚適齢期の男性を捕まえたい女性なんて、口は悪いが腐るほどいるだろう。
「ご無理はせずに、どうぞごゆっくり」
からかうように丁寧に言えば、若干目が据わる利人さん。
逃げよ〜。
優介さんが勘づいたらそれもそれで面倒だ。
その場から離れ、仕事をする。
そして、気付く。
ああ、面倒臭いやつにも見つけられた。
その視線に気付くけど、意識しないようにして仕事を進める。
けど、
「お前、久遠藍人だな?」
腕を掴まれる。