i -アイ-
「呼ばれたので、行きますね」
「俺を無視していいと思ってるのか」
何言ってんだこいつ。
とは思うけど、こういうのが典型的なボンボンだよなぁ。
この人、頭も悪いのかな。
この社会での生き方、ちゃーんと教わらないと痛い目見るぞ。
「俺にどうしてもらいたいんですか?それに、要望があったとして、ここがどういう場か、お父様がお金持ちなだけな貴方でもお分かりになるのでは」
反感を買うのは得策じゃない。
けれど、こいつに構ってる暇もない。
顔を赤くして静かに憤怒する西尾は、あたしから手を離す。
あたしは頭を軽く下げ、春日井さんの方へ進む。
学校なら相手をしてあげてもいい。
だからバスケは全部に応えてあげたんだ。
でもここでは、アンタは
ガシャンッ パリーンッ
後ろから瀬戸物が派手に割れる音がした。
振り返ればあたしより背の高い黒のスーツの人の背中があって、肩越しに西尾が見える。
西尾は青ざめて固まっている。
下を見れば、粉々になった瀬戸物の花瓶と、花。
スーツの男の人とあたしとの距離はほぼゼロで、何が起こったのか容易には判断できないけど、西尾があたしに花瓶を投げたのかもしれない。
だとしたら、
「お客様!お怪我は」
目の前にいる男の人の正面に回れば、状況をすぐに把握出来た。