i -アイ-
春日井さんが、亮さんを目の前にした時のような緊張した様子であたしにそう言った。
あたしは、ふっと笑った。
「もしかして、今日会食をされた方々の1人ですか?」
春日井さんが少しでも落ち着くように。
そして、自分の心を落ち着かせるように。
「っ……、ああ」
目を微かに見開き、狼狽えながらそう答えた春日井さん。
「そうですか。」
あたしは、ジャケットを着直して、深呼吸をする。
「行ってきますね」
ニコッと笑い、春日井さんの隣を通る。
春日井さんから離れた瞬間から、心臓がうるさく鼓動を打つ。
スタッフルームを出てエントランスに行けば、ソファに座る1人の男性を見つけた。
「お客様」
そう声をかければ、こちらに視線を移すのは
「ああ、仕事終わりに申し訳ない」
困ったように見せるが、目の奥が暗く感情が読めない。
これが本物か。
名雲碧。
ビリビリと感じる圧に、頭が痛くなりそうだ。
でも、あたしには
「いいえ、そのようなことは。私にどのようなご用でございますか?」
この顔がある。
ふわっと微笑んで見せれば、スゥッと真顔になる名雲碧。