i -アイ-
橘三國side
彼女はなぜ、辛く苦しい人生を歩まねばならないのだろう。
変わってやりたいと何度も思った。
幼い頃は一緒に遊んで、笑って。
皆、笑ってた。
俺は彼女が一番辛い時に一緒にいることが叶わなかった。
……それは、暁も同じだった。
「……榛人おじさんが、死んだ?」
俺は中学生で、藍達と会う回数も確かに減っていた。
けれど、いきなりすぎたんだ。
榛人さんの葬式も、何故だか親しい人達は皆、涙を流さなかった。
藍でさえ。
藍の所へ行きたかった。
「三國、やめなさい」
俺を止めたのは母さんだった。
「な…んで」
「着いてきなさい」
母さんの顔は見えなかったけど、俺は怖かったんだ。
妹の旦那が死んだというのに、妹と話すことも無くこの場を去ろうとしている母さんが。
何かがあるのだと、思った。
事故だが、事故じゃないんじゃないか。
そんな声も聞こえていたから。
……藍は?藍もいつか……
パンッ
家に着いて、人生で初めて母さんに頬を叩かれた。
見上げれば、俺を真顔で見下ろす母さんが居て、それは今まで知らない母さんの表情で、まるで母さんじゃないかのようだった。