i -アイ-
けれどすぐに、分かった。
「三國、あんた自分がどんな顔してるか分かる?」
「……へ?」
「藍ちゃんが、あの場でどんな顔をしていたか覚えてる?」
藍は……藍は、
「あの子は、まだ悲しむことも出来ないの」
少しずつ母さんの声が震えていく。
「三國。あなたがこれから生きていく世界は甘くない。もちろん私やお父さんは少しでも生きやすいように最善を尽くす。けれど、これから生きていくのはあなた自身なの」
ああ、榛人さんは、やっぱり
「情けない顔をするな」
父さんが近寄ってきて俺の頭に手を置いた。
「母さんはそう言いたいんだと思うぞ?」
なんて、笑う父さん。
「ちょっと」
「三國。お前は少しの間藍に会いに行くな。」
母さんの言葉より、重かった。
「……なんで」
「それが藍を守る、1番の方法なんだよ」
それ以外は何も教えてもらえなかった。
その後、榛人さんを殺した人間が亮さんだと噂されていることを知り、父さんや母さんに聞いたが、何も答えてはくれなかった。
ただ、御庄の人間と関わらないことが藍のためだとしか。
俺は親と仲がいい方だ。
けれど、御庄の話は暗黙の了解で禁止されていた。