i -アイ-
演技。
では、ない気がするのは、あたしの見る目が衰えたのか。
……いいや、演技じゃない。
碧さんは、榛人の事が好きだったのだろうか。
だとしたら、この人じゃないのだろうか。
分からない。
「藍人……?」
軽く俯いていたあたしに声をかける碧さん。
何故なんだろう。
碧さんは確かにあたしに榛人を重ねてる。
でもそこに、冷めたものを一瞬たりとも感じない。
ずっと、温かい。
意味が分からない。
「もしかして、高いところ苦手だったか?」
そう平然と聞く碧さん。
「大丈夫です。……ただ、碧さんが、悲しそうだったから」
その一言に、少し固まる碧さん。
ゆっくり、目線を降ろして、またあたしに目線を戻す。
背筋が凍った。
表情が消えていた。
言ってはいけないことを言った。
そう感じるほどに。
今度は目の笑わない笑顔で
「ごめんね。そんなふうに見えたか」
作り物のような、言わされたようなセリフ。
危険だ、そう頭の中で警鐘を鳴らす。
でも、ここで下がるな。
「日が落ちるまでもう少しここに居ましょう。」
眉を八の字にして、笑う。
そうだね、と答えた碧さんは、また瞳の奥が漆黒に染まっていた。