i -アイ-
日が落ちてから、そのテラスの下の階で夕食を食べた。
帰りは駅前で別れた。
「今日はありがとう。楽しかったよ」
「こちらこそです。ありがとうございました。全てご馳走していただいてしまって」
「いいんだよ。また誘うね」
そう言ってサラリと帰っていった。
普通の人間だと、そう判断したのかもしれないし、一筋縄じゃいかないと判断したのかもしれないし。
本当にあの人は読めなかった。
でも、焦りというより、疑問が沢山沸いた。
『困った時は』
ふと、その言葉が思い浮かんだ。
スマホを耳に当てる。
『……どうした』
機嫌の悪そうな声。
「あはは、寝てた?悪い、起こして」
とはいえ、そんなに遅くは無い時間なんだけど。
『大丈夫……で』
落ち着くな、なんか。
気を張って疲れたからか尚更。
「ちょっとさ、お願いがあって」
『……お願い?』
ガサガサと音がする。
起き上がったのか。
「うん、蓮に」
その後のあたしの言葉を真剣に聞いて、すぐに承諾してくれた蓮。
もっと渋るかと思ったけど、深くは聞かずに承諾してくれた。